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量子もつれマーケティング

量子もつれマーケティング

不気味な現象 ― 量子もつれ

物理学の世界には、常識を覆すような奇妙な現象が存在します。それが「量子もつれ」です。

二つの粒子が相互作用したあと、たとえ何億キロ離れても片方を観測するともう片方の状態も瞬時に確定する。アインシュタインでさえ「遠隔作用の不気味な現象」と呼びました。

直感的にはあり得ないつながりですが、量子コンピュータや量子暗号の基盤となるほど、その実在は確かなものです。
つまり宇宙には「目に見えない結びつき」があるのです。

社会や消費行動に潜む“もつれ”

この量子もつれを比喩にすると、私たちの生活や市場にも同じような構造が潜んでいることに気づきます。

例えば、ある人がインスタに投稿した一枚の写真が、直接見た友人を超えて、その友人の同僚、さらにその知人へと伝播していく。
誰もが「直接の影響はなかった」と思っていても、どこかで確かに行動を変えている。

消費者がブランドと接触する体験も同様です。
一度の購入体験や広告接触が、本人の購買だけでなく、家族の選好や職場での話題、SNS上の態度に連鎖的な影響を与える。
表面的なデータからは因果が見えなくても、裏側には“見えない糸”が張り巡らされているのです。

データ至上主義の限界

デジタルマーケティングは長らく「直線的な因果」に依存してきました。

クリック数やCVR(コンバージョン率)は計測しやすい指標ですが、そこに表れるのは氷山の一角にすぎません。
ユーザーの態度変容や口コミによる間接効果、数か月後に顕在化する購買行動などは、従来のKPIから漏れ落ちてしまいます。

量子もつれの比喩が示すのは、顧客行動は非線形であり、広告効果は網の目状のネットワークで広がっているという事実です。見える部分だけに基準を置けば、戦略は必ず歪みます。

もつれマーケティング

では、この不可視のつながりをどう広告に活かすのか。ヒントは3つの視点です。

  • ネットワーク視点
    個人単位ではなく、顧客同士のつながりを分析対象にする。口コミの経路やコミュニティ内での拡散力をモデル化すれば、「どの接点が波及力を持つか」を見極められる。
  • 時間視点
    短期的なクリックや購入だけではなく、長期のブランド想起や態度変容を測定対象にする。接触から半年後に再購入につながるケースも「効果」として組み込む。
  • 共鳴視点
    広告を単独のメッセージとして設計するのではなく、複数タッチポイントが干渉し合う「体験の場」を作る。バナー広告、SNS投稿、店頭体験が共鳴してこそ、大きな波を生む。

この3つを実装することで、広告は「単発の弾丸」から「場を揺らす共鳴波」へと進化します。

見えないものを前提にする戦略

量子もつれは、科学的に解明しきれないながらも現実に存在する“見えない結びつき”です。

マーケティングもまた、データで直接観測できない結びつきを前提にしなければなりません。
顧客行動は直線ではなく網の目。広告の真価は、その網をどれだけデザインできるかにかかっています。

そして、この視点を持つマーケターは、数値に表れない価値を設計し、ブランドと社会をより強く結びつけることができるでしょう。

不可視の関係を「ないもの」と切り捨てるか、「あるもの」として組み込むか――その選択こそが、これからの広告戦略を分ける分岐点になるのです。

ベイトくん

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