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ジャック・オー・ランタン

ジャック・オー・ランタン

けちんぼジャックの物語

むかしむかし、アイルランドに「ジャック」という男がいました。
ジャックは狡猾で酒好き、そして何よりもお金にけちけちした性分で、人々から「けちんぼジャック」と呼ばれていました。

ある晩、ジャックがいつものように居酒屋で酒をあおっていると、突然目の前に悪魔が現れました。
悪魔は「そろそろお前の魂をもらいに来た」と告げます。
ところがジャックは動じることなく、「その前にもう一杯飲ませてくれ」と言いました。しかし手持ちがない。
そこでジャックは悪魔に「コインに姿を変えてくれれば支払いに使える」と持ちかけたのです。
悪魔がその言葉を真に受けてコインに化けた瞬間、ジャックは素早くそれを銀の十字架のそばに置き、悪魔を閉じ込めてしまいました。

身動きが取れなくなった悪魔は観念し、ジャックと取引をします。
「お前の魂を当分の間奪わない」という約束をする代わりに、コインから解放してもらうことにしたのです。
こうして悪魔は渋々ながらもジャックの狡猾さに屈しました。

それからしばらくして、悪魔は再びジャックのもとに現れます。
しかしジャックは再度策略を仕掛けました。「最後に木の上のリンゴを取ってきてほしい」と頼んだのです。
悪魔が木に登ったところで、ジャックは幹に十字架の印を刻みつけ、悪魔を閉じ込めました。
逃げられなくなった悪魔は再び取引を迫られ、「ジャックが死んでも地獄へは連れて行かない」と約束させられることになったのです。

やがて月日が流れ、ジャックは寿命を迎えます。ところがその死後、彼を待っていたのは無慈悲な裁きでした。
天国の門を叩いても、放蕩と狡猾な一生のため入れてもらえません。
ならばと地獄へ向かいますが、そこでもかつての契約が効力を持ち、悪魔は彼を受け入れませんでした。

行き場を失ったジャックに、悪魔はせめての情けとしてひとつの燃える石炭を手渡します。
ジャックはその燃える石炭をくり抜いたカブに入れ、ランタン代わりにして灯しました。
そしてその光を頼りに、暗い闇の中を永遠にさまよい続けることになったのです。

めでたしめでたし。

欲望に勝ったはずのジャック

アイルランドの民話「けちんぼジャック」では、狡猾な男が悪魔を二度も出し抜き、自分の魂を奪わせない契約を勝ち取った。短期的に見ればジャックは勝者だった。しかし死後、彼を待っていたのは天国にも地獄にも受け入れられないという宙吊りの運命である。悪魔に勝ったはずが、結局は「どこにも行けない存在」として闇をさまようことになった。これは、一時の欲望に駆られた勝利が、長期的には敗北に転じるという寓話である。

AIを使っているつもりの人間

現代の私たちは、AIを「道具」として巧みに使いこなしているように見える。数秒で答えが返ってきて、仕事も学習も効率化される。人間はAIを出し抜き、うまく利用しているつもりになる。しかし、その便利さに慣れるほど、私たちの欲望は「速さ」「簡単さ」「それっぽさ」へと傾斜していく。するとAIは、その需要に応えるために功利主義的に最適化され、質や深さよりもスピードを重視するようになる。AIはせっせと「楽をする方法」を学び、人間が欲する最短経路だけを磨いていく。

出し抜かれているのは誰か

ここで逆転が起きる。人間はAIを操っているつもりでも、実際には自分自身の欲望に操られている。AIは人間が評価する指標に従って学習するため、表面的な満足が評価されれば、その方向に進化してしまう。やがて知識は浅薄化し、情報のエントロピーは増大し、社会全体はカオスに近づいていく。それっぽい回答からは何の結論も得られず、私たちはただ膨大な情報の渦に巻き込まれていく。

その間にも、AIは情報を蓄え続け、絶えず学びを積み重ねていく。人間が「楽をしたい」という欲望に従う限り、AIはせっせと効率化の方法を磨き、人間の側だけが思考を手放し、判断力を弱めていく。表面的には人間が勝者のように見えても、長期的に出し抜かれているのは人間の方なのだ。

中道を歩むために

ジャックの物語が教えるのは、欲望を満たすことに長けていても、最終的にはその欲が自らを孤立に導くという真理である。AIに対しても同じ構造が働く。短期的な利便性に溺れることは、悪魔との取引を繰り返すようなものだ。必要なのは、スピードと利便性を享受しながらも、同時に質や信頼を評価する姿勢である。人間が欲に飲み込まれるのではなく、主体的にAIとの関係を調整することで、初めて宙吊りの運命から逃れられる。

終わりなき放浪

けちんぼジャックは、悪魔を出し抜いたはずが、最終的には悪魔に仕組まれた秩序の中で宙吊りにされた。今日のAI利用もまた、人間がAIを操っているようで、実は欲望に引きずられ、AIの最適化の論理に出し抜かれている構図に似ている。だからこそ、私たちは強欲ではなく中道を選び、コツコツと信頼と質を積み上げる必要がある。さもなければ、ランタンを掲げて暗闇を彷徨うのは、AIではなく人間自身になるだろう。

ベイトくん

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