検索広告のCPA、5,000円。ディスプレイ広告のCPA、20,000円。

この数字を見て、「ディスプレイは効率が悪いから止めよう」「検索に予算を集中させよう」と判断したことはありませんか? あるいは、クライアントや上司にそう提案したこと。逆に、そう提案されて「たしかにそうだな」と納得したこと。おそらく、多くの方が一度は経験しているのではないでしょうか。

数字を見れば明らかです。4倍もCPAが違うのであれば、効率の良い方に寄せるのは当然の判断に思えます。ROIを最大化するのがマーケターの仕事ですから、この判断に異を唱える人は少ないでしょう。

でも、ここで少しだけ立ち止まって考えてみてください
その「安いCPA」は、本当に検索広告だけの実力で実現しているのでしょうか。もしかすると、私たちは数字に騙されているのかもしれません。

その検索、何がきっかけで発生しましたか?

そもそも、ユーザーが検索するという行動は、どのようにして生まれるのでしょうか。

たとえば「○○ 比較」「○○ 口コミ」「○○ 価格」といったキーワードで検索するとき、ユーザーはすでに「○○」という商品やサービスの存在を知っています。知らなければ検索しようがないからです。これは指名検索でも一般検索でも同じことが言えます。検索という行動の手前には、必ず「知るきっかけ」が存在しているのです。

では、その「きっかけ」はどこで生まれたのでしょうか。テレビCMを見たのかもしれません。SNSで流れてきた広告が目に入ったのかもしれません。YouTubeの動画広告かもしれませんし、ディスプレイ広告のバナーだったかもしれません。友人の口コミという可能性もあります。

いずれにせよ、検索という行動は「すでに何かを知っている」状態から発生します。つまり、検索広告が獲得しているCVは、どこかで「種が蒔かれた」結果なのです。

コンビニでお茶を買う場面を想像してみてください。レジに持っていく行為だけが購買ではありませんよね。棚で目に入ったから、パッケージが気になって手に取ったから、最終的に購入に至るわけです。広告も同じ構造をしています。認知があり、興味が生まれ、比較検討を経て、最終的に購入に至る。この一連の流れの中で、各広告はそれぞれ異なる役割を担っています。

ラストクリック計測が生み出す「見せかけの優劣」

多くの広告運用の現場で使われているのが「ラストクリック」と呼ばれる計測モデルです。これは、コンバージョンに至る直前に最後にクリックされた広告に、そのCVのすべての功績を帰属させる方法です。シンプルでわかりやすいので広く普及していますが、この計測方法には構造的な問題があります。

たとえば、こんなユーザー行動を考えてみてください。あるユーザーがニュースサイトを見ているときに、ディスプレイ広告で新しいサービスを知りました。その場では特にアクションを起こしませんでしたが、なんとなく記憶には残っています。3日後、ふとそのサービスのことを思い出し、検索エンジンで検索しました。表示された検索広告をクリックし、そのまま申し込みに至りました。

このとき、ラストクリック計測では、このCVはすべて「検索広告の成果」として記録されます。最初の認知を作ったディスプレイ広告の貢献は、数字の上では完全に消えてしまうのです。

これは、駅伝で最終走者だけにメダルを渡すようなものです。1区の選手が懸命に走って作った貯金があったからこそゴールテープを切れたのに、その貢献は記録に残りません。サッカーでいえば、アシストがまったく評価されず、ゴールを決めた選手だけが称賛される世界です。そんなチームで、誰がパスを出したいと思うでしょうか。

計測の仕組みそのものが、ディスプレイ広告を「成果の出ない広告」に見せてしまっている。これがラストクリック計測の構造的な問題です。

「初回接触コストの付け替え」という見えにくい構造

検索広告のCPA 5,000円という数字を、もう少し深く見てみましょう。

この5,000円で獲得した顧客は、いったいどこで御社の商品やサービスの存在を知ったのでしょうか。全員が検索広告で初めて知ったわけではないはずです。むしろ、すでに何らかの形で認知していたからこそ検索したという人が多いのではないでしょうか。

その認知を作ったのは誰でしょうか。ディスプレイ広告かもしれません。SNS広告かもしれません。YouTube広告かもしれませんし、テレビCMかもしれません。いずれにせよ、誰かが認知を作るためにコストを払っています。

しかし、そのコストはラストクリック計測では検索広告の成果には反映されません。検索広告のCPA 5,000円という数字には、「他の広告が投資した認知コスト」が含まれていないのです。言い換えれば、検索広告のCPAが安く見えるのは、検索広告が優秀だからではなく、他の広告が先行投資した認知コストを検索広告が「刈り取っている」からかもしれません。

わかりやすい例えで言えば、釣り堀で魚を釣るようなものです。釣り堀では簡単に魚が釣れますが、その魚は誰かが育てて放流したものです。放流にかかったコストを無視して「釣り堀は効率がいい」と言い切るのは、少し早計ではないでしょうか。水道代を払わずに蛇口から水を飲んで「水は無料だ」と言っているようなものかもしれません。

ディスプレイを止めたあと、何が起きるか

「ディスプレイ広告を止めて検索に集中したら、しばらくして検索のCV数も減ってきた」という話を、現場で耳にすることがあります。

最初の1ヶ月くらいは、ほとんど変化が見られないことが多いようです。これは、すでに認知を獲得しているユーザーがまだ市場に残っているからです。しかし、2〜3ヶ月が経過すると、検索ボリュームがじわじわと減少し始め、CPAも少しずつ悪化していきます。半年も経つと、指名検索が大きく減り、新規顧客の流入が目に見えて細くなっていく。そんなケースがあります。

これは、種を蒔く人がいなくなった畑のようなものです。収穫だけを続けていれば、いずれ畑は枯れてしまいます。「効率が良くなった」と思っていたら、実は「市場での認知」を切り売りしていただけだった。短期的なCPA改善と引き換えに、長期的な成長エンジンを止めてしまっていた。そんな事態に気づいたときには、すでに手遅れになっていることもあります。

もちろん、すべてのケースでこうなるわけではありません。商材や市場環境によって状況は異なります。ただ、「ディスプレイを止めても検索には影響がないはずだ」という前提で判断するのは、リスクがあるということは認識しておいた方がよいでしょう。

では、どう評価すればいいのか

ラストクリック計測の限界が見えてきたところで、「ではどうすればいいのか」という疑問が湧いてくるかと思います。

一つのアプローチが「アトリビューション分析」です。これは、コンバージョンに至るまでの複数のタッチポイントに、どのように功績を配分するかを考える手法です。終点モデル(ラストクリック)では最後のタッチポイントにすべてを配分しますが、線形モデルではすべてのタッチポイントに均等に配分し、減衰モデルではCVに近いタッチポイントほど重く評価します。データドリブンモデルでは、機械学習を使って貢献度を推定することもできます。

ただ、ここで大切なのは「唯一の正解を見つけること」ではありません。どのモデルにも一長一短があり、完璧なアトリビューションモデルというものは存在しません。重要なのは、ラストクリック以外の視点を持つこと自体に意味があるということです。

GA4ではモデル比較レポートを確認できますし、Meta広告マネージャーではアトリビューション設定を変えて比較することができます。CV数だけでなく「アシストコンバージョン」という指標に目を向けることで、各チャネルがCVにどのように貢献しているかが見えてきます。

まずは、普段見ているレポートを別の視点で見てみる。それだけでも、広告評価に対する考え方は変わってくるはずです。

広告予算は「チームへの投資」です

検索広告は、サッカーでいえば優秀なストライカーのような存在です。ゴールを決める力があり、数字にも表れやすい。しかし、パスを出すミッドフィルダーがいなければ、ストライカーにボールは届きません。ディフェンダーが守ってくれなければ、攻撃の機会すら作れません。

広告運用も同じです。「どのチャネルが勝っているか」という視点で個別に評価するのではなく、「チーム全体でどう成果を出すか」という視点が大切です。ディスプレイ広告やSNS広告は、直接的なCVは少ないかもしれませんが、検索CVを生み出す「アシスト役」として機能している可能性があります。そのアシスト役を「効率が悪い」という理由で外してしまったら、チーム全体のパフォーマンスはどうなるでしょうか。

冒頭の問いに戻ります。検索広告のCPA 5,000円、ディスプレイ広告のCPA 20,000円。この数字を見て「検索に集中しよう」と判断する前に、少しだけ考えてみてください。

その検索CVを生み出しているのは何か。止めようとしているその広告は、本当に「無駄」なのか。それとも、検索広告の成果を陰で支えている「アシスト王」なのか。

CPAの数字だけを見るのではなく、その数字がどのような経路で生まれたのかを見る。その習慣を持つことが、広告運用の質を一段上げてくれるのではないかと思います。